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Saito Laboratory

Experimental Physics on Positron (e+) and Positronium (Ps)

Institute of Physics, Graduate School of Arts and Sciences, University of Tokyo, 3-8-1 Komaba, Meguro-ku, Tokyo 153-8902, Japan


(最終更新日:平成29329日)



斎藤研究室紹介

陽電子(電子の反粒子)を用いた実験・理論・応用の物理学


Topics


陽電子の物理を楽しむ



スタッフ

役職氏名所属執務室連絡先
@youshi.c.u-tokyo.ac.jp
追加情報
准教授斎藤 晴雄
SAITO, Haruo
広域システム科学系
※入試はこちらで受けて下さい
16-201Asaitou
(内線 4-6548)
個人ページ
助教
澁谷 憲悟
SHIBUYA, Kengo
相関基礎科学系15-B11shibuken
(内線 4-6540)
個人ページ
雑記帳

院生大募集中。結構いい装置も出来て、どんどんデータが出てきているところです。最近理論の論文も出しましたPRA85。実験・理論・PETいろいろ出来ますので、まずは見学・御相談を。


写真:15号館地下1階にある一次元角相関(1D−ACAR)。
写真の手前から奥までで一つの装置。

研究概要

○はじめに

 ポジトロニウム(Ps)は電子(e-)とその反粒子である陽電子(e+)の結合状態であり、水素より千倍も軽いエキゾチックな「原子」です。極めてシンプルな系でありながら、少し立ち入ると未知の物理現象が顔をのぞかせる奥深さが魅力です。

 私たちの研究では、e-とe+が対消滅する際に発生するγ線を手掛かりとして、Psやe+、あるいは消滅相手のe-に関する謎を解きながら、新しい物理を明らかにしています。

 近年、物理学実験は大規模化の傾向にあり、ともすれば全体像や個人の寄与が見・ヲにくくなっています。私たちの研究では、装置の組み立てからデータ解析までを一人一人が担当するので、大学院生でもその装置に関して世界中の誰よりも詳しくなることが出来ます。また、サイエンスの進歩に個人がどれだけ寄与したかが明確なので、2年間じっくりと取り組めば、理系を修めた人間として胸を張る自信がつく研究室です。

 以下に、研究テーマの例を紹介します。


○Psの新しい反応

 e-とe+はスピンを持ち、磁気的には小さな棒磁石のようなものです。この棒磁石は量子力学的な存在なので、Psには、e-とe+のスピンが平行な状態(↑↑)か反平行の状態(↑↓)しか存在しません。前者をオルソ−ポジトロニウム(o-Ps)、後者をパラ−ポジトロニウム(p-Ps)と呼びます。p-Psの寿命は約125 psですが、o-Psの寿命はそれよりも1,000倍以上も長く142 nsです。

 ところで、e+はどこから手に入れるのでしょうか?e+22Na等の原子核からβ+壊変にともなって出てきます。放出されたe+は、近くの原子や分子と相互作用を繰り返しながら熱化(環境との熱平衡に達すること)し、あるものは近くにある多数のe-の一つと直ちに対消滅し、又あるものはPsを形成して一定の寿命を経たのち対消滅します。Psの形成率はe+が入射した物質の種類によります。

 Xeガス中ではPs形成率が異常に低いことが知られていましたが、その原因は長らく不明でした。本研究室において、Psに磁場をかけてo-Psの三重縮退を解いて挙動を調べたところ、o-PsがXeに衝突した際に、スピン軌道相互作用によって寿命の短いp-Psにスピン転換をしていることが分かりました。つまり、Psの形成率が低かったのではなく、予想外の経路でo-Psが消滅していたのです。現在、この新しい反応機構について更に研究を進めています。また、この反応機構を利用してPsと原子・分子の相互作用を調べる新しい研究手法が誕生しつつあります。

磁場印加装置


○Psスピン回転の測定

 磁場中のPsは磁力線に巻きつくように歳差運動(スピン回転)をします。Psがスピン回転すると、Psが消滅する時に発生する放射線の放射面も一緒に回転するので、ある角度に設置した放射線検出器で観測すると入射放射線数の周期的な増減が確認できます。私たちは、デジタル測定・解析技術を駆使して、この回転周波数の精密測定に取り組ん・ナいます。

 この周波数から逆にPsが感じている磁場の大きさが分かるため、物質中のPsのスピン回転が計測できれば、新しい局所磁場測定法として応用できます。類似技術にミュオンを利用したμSR(ミュオンスピン回転)がありますが、μSRは大型加速器施設でしか実施出来ません。これに対してPsSR(Psスピン回転)が実現されれば実験室でも測定出来ますので、μSRよりも遥かに利便性が高いと言えます。

 また、この周波数からPsの超微細エネルギー分裂と呼ばれる定数が求められます。この値を量子電磁気学による計算値と比較することで、量子電磁気学の近似精度が検証できます。Psは、純粋にレプトン同士からなる“原子”なので、量子電磁気学の精度検証に適しています。ところが、最新の計算結果と実験結果で比べてみると、有意(約4σ)な食い違いがあることが知られており、計算と実験の両面から精度向上が綿々と続けられています。あなたの測定結果が量子電磁気学に一石を投じる結果となるかもしれません。


○陽電子消滅2光子の同時性

 陽電子が電子と消滅した際に生じる2本のガンマ線(γ線、光子)を、線源から離れた2つの検出器で測定する際、それぞれの検出器にγ線は同時に到達するでしょうか?線源から検出器までの距離は同じとします。

 この問題はこれまで当然のように、同時であると信じられ・トきました。ところが近年、当研究室で、測定装置が改良され時間分解能(タイミングを決定する能力)が、200ps程度から、最高で60psにまで向上して来ました。さらに測定精度が向上すると測定結果はどうなるでしょうか?「もしも究極の検出器があれば、時間分解能は0psになるのか、それとも有限の値になるのか」という問いが、物理の基本問題として浮上してきたわけです。

 私たちは量子電磁気学および量子光学の理論と実験の・シ面から、この問題を検討しました。

 その結果、消滅γ線の波動関数は2光子が強くエンタングルメント(量子もつれ)しており、このエンタングルメントが“見かけ上の同時性”を作り出している、ということが分かりました。γ線の波動関数は、検出前には空間的に大きく(〜数cm)広がっていますが、2光子のうちまず片側のγ線が測定されると、位置が収束しδ関数になります。これにより反対側のγ線の波動関数も収束し、見かけ上のγ線の同時性が得られます。

 同時性の程度は、もとのポジトロニウム(陽電子電子対)の重心運動の波動関数の広がりで決まることが、私たちの研究で明らかになりました。この広がりは、通常の実験条件ではナノメートル程度であり、最大でも1ミクロンを超えないので、2本のγ線は見かけ上同時に検出器に到達するように見えます。

 これは、量子力学の非局所性や観測問題の例としても興味深い系と言えます。

デジタルAMOC


○新しい装置の開発

 私たちは、近年進歩の著しいデジタル処理技術を、いち早くγ線の信号処理に取り入れ、実験面の精度を飛躍的に向上させました。

 従来のPsの寿命測定装置の時間分解能は200〜250 ps程度でしたが、私たちは、放射線検出器からの信号をデジタルオシロスコープで記録し、計算機で的確にノイズを除去しながら解析するという手法で、100〜150 ps程度の分解能を実現しました。

 現在は、この寿命測定装置と電磁石を組み合わせた装置(これでスピン転換を発見した)や、γ線のエネルギーを精密に測定する検出器と組み合わせた装置など、新しい実験系を順々に開発して、Psやe+の新しい物理を明らかにしています。

 例えば、顕微鏡により毛細血管が発見されて血液の循環説が確証されました。新しい測定装置の開発は新しい現象の発見につながりますが、そのことを日々実感できる楽しい研究です。もちろん、新しい装置が最初から思い通りに動いたりはしませんが、その原因を突き止めて改善していくうちに、データが語りかけてくる事に気がつくようになります。


○技術的な応用

 上記の世界最高精度の時間分解能を持った陽電子寿命測定装置に対して、国内外から引き合いがあるため、ベンチャー企業の立ち上げも検討しています。(特許も色々出願しています)

 また、γ線検出器やデジタル信号処理技術はPET(陽電子断層撮像装置)などの医療機器開発にも応用ができます。放射線医学総合研究所との共同研究テーマもあります。

 また、Psの歳差運動の精密測定から、新しい材料分析装置が誕生するかもしれません。

オシロスコープ等


○おわりに

 出身の大学・学部を問わず、院生募集中です。入試は広域システム科学系を受験して下さい。実験は主に15号館内で行っていますので、いつでも見学が可能です。ご連絡やご相談をお待ちしています。15号館の地下にはγ線実験のための放射線管理区域がありますが、これは中々贅沢な環境です。

 あと、院生のアルバイトとして学生実験のTA(1回1万3千円×6〜24回/年)等があります。また博士課程では、研究遂行協力制度により半数以上の院生(希望者のほとんど)に年間30万円弱が給与されています。 


研究テーマ

 上記と一部重複しますが、最近のテーマの個別の解説です。


大学院生募集

 本研究室では、研究に興味のある大学院生を修士・博士問わず、また出身大学や学部を問わず募集している(物理以外のバックグランドでも良い)。入学者は、総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系>斎藤晴雄研究室で受け入れる(※ここの入試を受ける)。

 研究室の見学や、入試に関する相談は随時受け付けているので、メール等で連絡して欲しい。興味があれば、来年度の受験生でなくても良い。

 本研究室の特長は、各人が修士課程から独立したテーマを与えられ、各自が研究能力の開発にじっくり取り組める環境が与えられる点である。


OB・OG

修了年度学位氏名所属進路学位論文題目
平成28年度
修士
細谷 亮介
Hosotani, Ryosuke
広域システム科学系中国電力に(総合職として)就職ヘリウムガス中のポジトロニウムの研究
平成23年度
修士
酒井 貴雅
Sakai, Takamasa
広域システム科学系富士通に(SEとして)就職ポジトロニウム消滅γ線振動を用いた物質内の磁場測定システムの開発
平成22年度
修士
川村 純弘
KAWAMURA, Yoshihiro
広域システム科学・n出光興産(機能性油脂の部門)に就職デジタイザを用いた陽電子消滅時間運動量相関測定装置によるガス中におけるポジトロニウム原子の研究
平成21年度
修士
久保  聡
KUBO, Satoshi
広域システム科学系セイコーエプソン(産業用ロボットの部門)に就職ポジトロニウム原子のスピン回転の測定



〒153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻
(駒場Tキャンパス15&16号館)