斎藤研:電子対消滅γ線検出器の開発(TOF−PETにも応用)


背景

陽電子断層撮像装置(PET)の原理は、電子・陽電子対消滅放射線の同時計数である。消滅γ線は二本が同時に正反対の方向へ放出されるため、被検体の周囲に同心円状に放射線検出器を配置すると、放射能分布に関する情報が同時計数の成立した検出器同士を結ぶ線分として三次元的に得られる。PETに用いられる主な陽電子放出核種は、11C、13N、15O、18Fなど生体構成元素の同位体が多いため(18Fは化学的にOHと似ている)、任意の生体分子(たんぱく質など)を標識しその代謝を追跡できる。

X線CTが吸収係数で解剖学的な形態情報を与えるのに対し、PETは放射能分布で生理学的な機能情報を与える。両者は相補的な関係にあり、最近では、PET/CTと呼ばれる複合装置が腫瘍診断等の広範な医療分野で利用されている。

PETの検出器に求められる性能は、消滅放射線の同時計数を共通の目的として、陽電子消滅実験の検出器に求められる性能と重複している。ただし、位置分解能に関しては、診断画像の解像度の向上に伴いPETの方が進んでおり、時間分解能に関しては、寿命測定技術の向上に伴い陽電子消滅実験の方が進んでいる。エネルギー分解能に関しては、両者で大きな違いはない。


本研究室の取り組み

そこで、陽電子消滅実験の時間分解能に関する知見(例えば波形処理技術など)をPETに適用すれば、消滅γ線の飛行時間を画像再構成に利用する、いわゆる「TOF−PET」の大幅な感度向上が期待される。一方、PETの位置分解能に関する知見(例えばブロック型検出器の作製技術など)を陽電子消滅実感に適用すれば、陽電子寿命と電子運動量(角度相関)を同時に測定する新たな分析装置を構築できる。このように、核医学と実験物理学の技術的な交流が双方に利益をもたらす。

このような観点から、本研究室では千葉市の放射線医学総合研究所・分子イメージング研究センターや、浜松ホトニクス(株)と検出器開発に関する共同研究を行っている。

2009年6月9日 澁谷憲悟 記

※なお、本研究は平成21年度より(独)科学技術振興機構の先端計測分析技術・機器開発事業『革新的PET用3次元放射線検出器の開発』(研究代表者:放射線医学総合研究所・山谷泰賀チームリーダー)に採択され、開発支援を受けている。