斎藤研:ポジトロニウムの超微細エネルギー分裂の研究


背景

 陽電子は電子の反粒子であり正電荷を有する。陽電子と電子で形成される水素様原子をポジトロニウム(Ps)と呼ぶ。Psは、陽電子と電子のスピンの状態で分類され、スピンが平行な場合をオルソポジトロニウム(o-Ps)、反平行な状態をパラポジトロニウム(p-Ps)と呼ぶ。o-Psは、磁場のない環境では三重に縮退しており、p-Psよりも8.4×10-4 eVだけエネルギーが高い。このエネルギー差を、ここではポジトロニウムの超微細エネルギー分裂(hyperfine splitting: HFS)と呼ぶ。

 現在、このPs-HFSの理論値と実験値に数ppmの差違が認められており、その原因が、単なる測定上の系統誤差なのか、あるいは理論の誤りなのか、はたまた新しい粒子等の未知の物理現象なのかが議論されている。


本研究室の取り組み

 そこで、我々は"Baryshevsky振動"と呼ばれる現象を精密に測定する実験から、この問題に対して定量的な見解が得られないか検討している。

 Baryshevsky振動とは、磁場下でo-Ps三重項の縮退が解け(いわゆるゼーマン効果)、新たに生じた基底状態との間でo-Psが振動する現象である。古典論的描画では、磁力線に巻き付いたo-Psの歳差運動(首振り運動)と考えられる。この歳差運動は、o-Psが三光子消滅する際に放射されるγ線の放射面の回転として現れ、固定されたγ線検出器では計数率の周期的な時間振動として観測される。Baryshevsky振動の周期はPs-HFSにある定数を掛けたものである。

 この測定には、斎藤研で開発された陽電子寿命測定装置が応用されており、既報よりも勝れた時間分解能での測定が可能と考えられる。現在は、磁場強度と振動周期の関係を調べる実験を行いつつ、エネルギー分解能に勝れた新しいLaBr3:Ceシンチレータの活用など、システムの技術的な向上に努めている。

 なお、このテーマは、理学系研究科、高エネ研、福井大学との共同研究として行われている。

2009年4月23日 澁谷記